AI検索の対策に取り組みたいけれど、「本当に成果につながるのか」と聞かれると答えに詰まってしまう。社内の稟議や予算の相談で、そんな壁にぶつかっている担当者の方は少なくないのではないでしょうか。バクリにも、「上司を説得できる事例はないか」という相談がよく寄せられます。こうしたときに頼りになるのが、すでに成果を数字で公表している企業の事例です。
海外でよく取り上げられるのが、Webサイト制作のプラットフォームを提供するWebflowと、Webアプリの開発・公開基盤を提供するVercelの2社です。Webflowでは新規登録の約1割がAI検索経由になり、Vercelでは ChatGPT経由の新規登録が半年で1%から約10%に増えました。
本記事では、2社がAIOで何を行い、どんな成果を出したのかを、公式ブログや経営陣への取材記事などの一次情報をもとに整理します。そのうえで、事例を読むときの注意点と、日本企業が取り入れられることまで解説します。目を引く数字に振り回されず、自社に持ち帰れる部分を見極めるための材料として読んでいただければと思います。
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目次
- 1 1. なぜWebflowとVercelのAIO事例が注目されるのか
- 2 2. 【事例1】WebflowのAIO|AI検索経由の新規登録が全体の1割に
- 3 3. WebflowがAIOで行った施策
- 4 4. 【事例2】VercelのAIO|ChatGPT経由の新規登録が半年で1%から10%に
- 5 5. VercelがAIOで行った施策
- 6 6. WebflowとVercelのAIO事例に共通する5つの原則
- 7 7. WebflowとVercelのAIO事例を読むときの注意点
- 8 8. 日本企業がWebflow・VercelのAIO事例から取り入れられること
- 9 9. 自社でAIOの効果を検証する方法|Webflowの事例に学ぶ
- 10 11. まとめ|WebflowとVercelのAIO事例から学ぶべきは「数字」より「進め方」
1. なぜWebflowとVercelのAIO事例が注目されるのか

1-1. 2社の概要
Webflowは、コードを書かずにWebサイトを制作・公開できるプラットフォームです。デザイナーやマーケターを中心に、世界中の企業が利用しています。プログラミングの知識がなくても、画面上の操作でデザインを組み立て、そのままサイトとして公開できるところに特徴があります。
一方のVercelは、Webアプリケーションの開発・公開の基盤を提供する企業です。オープンソースのフレームワーク「Next.js」の開発元としても知られ、主な利用者は開発者です。フレームワークとは、アプリを効率よく作るための土台になる仕組みのことで、Next.jsはその一つにあたります。
こうして並べてみると、2社の利用者像には似たところがあると気づくはずです。どちらも、Webをつくる仕事をしている人、つまり新しいツールや技術に日ごろから触れている人たちが主な顧客になっています。この点は、7章で事例を読むときの注意点として改めて取り上げますが、最初に頭に入れておくと数字の見え方がずいぶん変わってきます。
また、本記事で紹介する成果は、どちらも「新規登録」、つまりサービスを使い始めるための登録の数や割合で示されています。売上や問い合わせ件数とは指標の性質が違うため、自社に置き換えるときは「うちにとっての新規登録にあたるものは何か」を考えながら読むと、理解しやすいかもしれません。
1-2. 成果を数字で公表している
AI検索の対策は、成果の測り方がまだ確立していないこともあり、具体的な数字を公表している企業は多くありません。AIの回答を読んだ人がそのままサイトを訪れるとは限らず、どこまでをAIの影響とみなすかの線引きが難しいからです。そうした状況で、あえて数字を出すこと自体に勇気が要るとも言えます。
その中で2社は、AI検索経由の新規登録が全体のどれくらいを占めるか、どれくらい増えたかを、経営陣や公式ブログで明らかにしています。「AIに言及された回数が増えた」という途中の指標ではなく、事業に直結する新規登録で語っている点が、ほかの事例との大きな違いです。
実際、担当者の方と話していると、「AI対策をやりたいが、上司に何が増えるのかと聞かれて答えられない」という声をよく聞きます。たとえば、BtoBのマーケティング担当者が予算会議で「それで問い合わせは増えるのか」と問われたとき、引用回数の話だけでは説得力に欠けてしまうでしょう。2社の事例が繰り返し参照されるのは、まさにこの問いに、一次情報の数字で答えているからだと考えています。
1-3. AIOとの関係
AI検索全体で自社が引用・紹介される状態をつくる取り組みがAIOです。バクリでは、AIOを以下のように定義しています。
AIOの定義
主な対象:AI Overview+各種生成AI(AI検索全般)
目的:AI Overview対策とLLM対策(その他AI対策)を合わせた総称。AI検索全体で引用・紹介される状態をつくること
ここでいうAI Overviewは、Googleの検索結果の上部にAIが要約した回答を表示する機能のことです。LLMは大規模言語モデルの略で、ChatGPTやPerplexityのような生成AIの土台になっている技術を指します。AIOは、この両方をひとまとめにして考える枠組みだと捉えてください。
2社の事例は、AIOが実際の事業成果、つまり新規登録の増加につながることを示した、数少ない公開事例です。AIOの話になると、どうしても「引用されたかどうか」に関心が集まりがちですが、引用はあくまで途中経過にすぎません。引用された結果として人が訪れ、登録や問い合わせに至って、はじめて事業の成果になるわけです。
その意味で、WebflowとVercelの事例は、引用から成果までの道筋を通しで見せてくれる貴重な材料と言えます。以降の章では、この「引用の先にある成果」を意識しながら、2社の取り組みを順に見ていきます。
1-4. 本記事で使う情報源
本記事では、数値の信頼度を区別するため、次のように情報源を分けて扱います。
| 区分 | 情報源 | 扱い |
|---|---|---|
| 企業自身の発表 | Vercel公式ブログ、WebflowのVP of Growthへの取材記事 | 主な根拠として使う |
| 支援会社の公表事例 | Webflowを支援したGraphite、AirOpsの事例ページ | 施策の中身の参考として使う(第三者の検証はない) |
表の上段は、成果を出した企業自身が語っている情報です。公式ブログや経営陣の発言は、少なくとも当事者が自分の言葉で公表したものなので、本記事ではこれを数字の主な根拠にしています。
下段は、Webflowの施策を手伝った支援会社が、自社の実績として公開している事例ページです。どんな作業をしたのかが具体的に書かれていて、施策の中身を知るには役に立ちます。ただ、支援会社にとっては自社の宣伝を兼ねた資料でもあり、数値を第三者が検証したわけではありません。そのため本記事では、施策の参考にはしつつも、数字は参考値という扱いにとどめています。
この区別は、読者の方が社内資料をつくるときにも意味を持ちます。たとえば、役員向けの提案書に「AI経由の新規登録が〇%」と書くなら、どの情報源の数字なのかを添えておくと、後から突っ込まれたときに慌てずに済むでしょう。実際、Webflowの数字は情報源によって食い違っており、その点は7-3で詳しく説明します。
2. 【事例1】WebflowのAIO|AI検索経由の新規登録が全体の1割に

2-1. 成果の概要
成長戦略に関する専門メディア「Growth Unhinged」が2025年11月に公開した、WebflowのVP of Growth、Josh Grant氏への取材記事によると、Webflowの成果は次のとおりです。VP of Growthは、事業の成長施策を統括する役職と考えるとわかりやすいでしょう。
- 新規登録の10%がAI検索経由で、前年比4倍に成長
- ChatGPT経由の訪問者のコンバージョン率は24%で、Google経由の6倍
- AI経由のコンバージョンの3分の2は、訪問から7日以内に発生
- AI経由の訪問の内訳は、ChatGPTが91%、Perplexityが4%、CopilotとGeminiが各2%、Claudeが1%
コンバージョン率とは、訪れた人のうち、登録などの成果に至った人の割合のことです。ChatGPT経由の訪問者がGoogle経由の6倍の割合で成果に至っているということは、AIとのやり取りの中で比較や検討をある程度済ませてから訪れている人が多い、と読み取ることもできます。コンバージョンの3分の2が訪問から7日以内に起きている点も、その見方と矛盾しません。
訪問の内訳を見ると、ChatGPTが圧倒的な割合を占めています。自社で計測を始めるときも、まずはChatGPTからの訪問を確実に捉えることから手をつけるのが現実的かもしれません。
なお、10%という数字は、AI経由だと直接計測できた訪問にもとづくもので、記事では、実際の影響はこれより大きい可能性があるとしています。たとえば、AIの回答で名前を知った人が、あとから社名で検索して訪れるというケースでは、その訪問はAI経由として記録されません。数字に表れない影響があることは、自社で計測するときにも覚えておきたい点です。
2-2. 量は減っても、質は上がった
同じ記事でGrant氏は、GoogleのAI Overviewの影響で、価値の低い、目的のはっきりしない訪問は減ったと述べています。一方で、質の高い訪問は増えており、全体の訪問数は減ったものの、成果は伸びています。
なぜこうしたことが起きるのでしょうか。用語の意味を軽く確かめたいだけの人であれば、検索結果のAI Overviewで答えを読んで満足し、サイトまで来ないことが考えられます。反対に、具体的な検討を進めている人は、AIの回答を読んだうえで、さらに詳しく知るためにサイトを訪れます。結果として、訪問数は減っても、残った訪問の中身は濃くなるという理屈です。
記事は、質を測る指標なしに総訪問数を見ると、判断を誤ると結論づけています。現場でよく相談されるのが、まさにこの状況です。たとえば、月次の報告で「自然検索の訪問数が前年より減った」とだけ伝えると、上司は施策がうまくいっていないと受け取るかもしれません。ところが、登録や問い合わせの数まで並べてみると、むしろ伸びていたということもあり得ます。
AI検索の時代に、何を成果として測るべきかを示す事例と言えるでしょう。訪問数だけを追う報告の形を見直すことが、AIOに取り組む前の準備として欠かせない、と私たちは考えています。
2-3. llms.txtは目立った効果なし
同じ記事では、Webflowがllms.txtを導入したものの、目立った効果は確認できなかったことも紹介されています。llms.txtとは、AIに向けてサイトの概要や主要なページを伝えるために、サイトに設置するテキストファイルのことです。AI検索の対策として紹介されることの多い施策ですが、成果を出した企業の実感としては、決め手にはならなかったということです。
この話を聞くと、「では、llms.txtは置かなくてよいのか」と考える方もいるでしょう。ただ、ここで読み取るべきは、llms.txtが無意味だということではありません。成果を出した企業でさえ、効果をはっきり感じられなかった施策だという事実です。限られた人手の中で何から手をつけるかを決めるとき、優先順位を下げる判断材料にはなります。
担当者の方と話していると、「とりあえずllms.txtを置いたので、AI対策はひと通り済んだ」と考えてしまっているケースに出会うことがあります。設置そのものは手間が少ない作業ですが、それだけで引用や新規登録が増えると期待するのは、Webflowの経験に照らすと少し楽観的かもしれません。次の3章で見るように、Webflowの成果はコンテンツの中身や構造、第三者の場での評判づくりなど、もっと地道な取り組みの積み重ねから生まれています。
3. WebflowがAIOで行った施策

ここからは、Webflowの取材記事と、Webflowを支援した会社が公表している事例をもとに、具体的な施策を整理します。支援会社の数値は第三者による検証がないため、参考値として扱ってください。数字そのものよりも、「何を、どんな順番で、どう確かめながら進めたか」に注目して読むと、自社に応用しやすくなります。
3-1. AI検索での見え方を計測する
Webflowは、AI検索で自社がどのくらい言及されているかを計測するツール(Profound)を使い、AI経由の訪問の質と量を追っていました。何を測るかを決めたうえで施策を打っている点が、すべての出発点です。
当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、実務ではこの順番が逆になりがちです。記事を増やしたり構造を整えたりと、先に手を動かしてしまい、あとから「効果はあったのか」と聞かれて困る。そうした相談は、私たちのところにもたびたび届きます。施策の前に測る仕組みがなければ、変化が起きても、それが施策のおかげなのか、たまたまなのかを区別できません。
測る対象は大きく2つに分かれます。ひとつは、AIの回答の中で自社がどれくらい名前を出されているかという「見え方」です。もうひとつは、そこから実際にどれくらいの人が訪れ、登録に至ったかという「成果」にあたります。Webflowは専用のツールで前者を、訪問の質と量で後者を追っていたと読み取れます。
自社で始める場合も、いきなり専用ツールを導入する必要はありません。まずは「AIに言及されているか」と「AI経由の訪問が成果につながっているか」の両方を、何らかの形で定期的に確認できる状態をつくることが大切です。その具体的な方法は、8章と9章で紹介します。
3-2. ロングテールの質問に答えるコンテンツをつくる
支援会社Graphiteの事例ページによると、Webflowは「最適なCMSは」という大きな質問だけでなく、「〇〇のようなチームには、どのツールが合うか」といった、利用者の状況に応じた細かい質問に答える記事を作成しました。CMSとは、Webサイトの記事や画像を管理するための仕組みのことです。
ロングテールとは、一つひとつの検索数は少ないものの、具体的で数の多い質問の集まりを指します。従来のSEOでは、検索数の多い大きなキーワードが優先されがちでした。ところが、AIに投げられる質問は、検索キーワードより長く具体的になりがちです。人はAIに対して、自分の状況を説明しながら相談するように質問するからでしょう。
たとえば、少人数の制作チームを率いている方が、「デザイナー中心でエンジニアがいないチームが、クライアントのサイトを素早く公開するには、どのツールがいいか」とAIに尋ねたとします。このとき、一般論として「おすすめのCMS」を並べたページより、まさにその状況に答えているページのほうが、AIにとって回答の材料として使いやすいはずです。
Webflowは、その具体的な質問に、正面から答えるページを用意したわけです。どんな状況の利用者が、どんな言葉で悩みを相談するのか。その想像の解像度を上げることが、この施策の出発点になっていると言えます。
3-3. テンプレートページの冒頭に答えを置く
同じ事例ページでは、Webflowの約1,500のテンプレート紹介ページに、ページを開いてすぐ目に入る位置に、質問に答える形の説明文を加えたことが紹介されています。テンプレートとは、サイトをつくるときのひな形のことで、その紹介ページは利用者が自分に合うデザインを探すときに訪れる場所です。
冒頭に答えを置く理由は、読む人とAIの両方にとって、最初の数行がもっとも重要だからです。人は、ページを開いてすぐに自分の疑問への答えが見つからなければ、離れてしまうことがあります。AIも、ページの中から質問への答えにあたる部分を探して回答をつくるため、答えがはっきりした形で書かれているほうが拾いやすいと考えられます。
よくあるつまずきは、冒頭を自社の宣伝文句で埋めてしまうことです。「洗練されたデザインで、あなたのビジネスを加速」のような文は、雰囲気は伝わっても、何の質問にも答えていません。「このテンプレートは、どんな用途の、どんな人に向いているのか」を一文目で言い切るほうが、AIにとっても読者にとっても親切です。
また、約1,500ページという規模で同じ考え方を適用している点にも注目したいところです。一部のページだけを丁寧に直すのではなく、同じ型のページにまとめて手を入れたからこそ、全体として効果が表れやすかったのではないでしょうか。
3-4. 見出しの質問化と目次の追加を、比較実験で検証する
注目したいのは、施策の効果を、比較対象を置いた実験で確かめていることです。Graphiteの事例ページによると、施策を行うページと行わないページを各10ずつ用意し、数週間にわたって比較しました。
その結果、見出しを質問形式にしたページでは、比較対象と比べてAI経由の訪問が58%増加しました。また、目次を追加したページでは、比較対象と比べてAI経由の訪問が60%増加したとされています。
どちらも、比較対象の変化を差し引いた値です。なぜ差し引く必要があるのかというと、AI検索の世界では、利用者の増加やAI側の仕組みの変化によって、何もしなくても訪問が増えたり減ったりするからです。施策を行ったページだけを見て「増えた」と喜んでも、それが施策の効果なのか、全体の流れなのかは判断できません。施策を行わないページを横に置くことで、はじめて施策そのものの効果を取り出せるわけです。
ページ数が少ない実験である点には注意が必要です。各10ページという規模では、たまたま一部のページが大きく伸びただけでも結果が左右されかねません。とはいえ、思いつきではなく、比べて確かめてから広げるという進め方は、そのまま参考になります。自社で同じことを試す具体的な手順は、9章で紹介します。
3-5. Redditなどのコミュニティで役に立つ
Webflowは、Redditで、自社に関係する質問に宣伝色のない有益な回答をする取り組みも行っていました。Redditは、英語圏で広く使われている掲示板型のコミュニティサイトで、テーマごとに分かれた場で利用者が質問や議論をしています。取材記事では、Redditの分析に専用のツールを使っていたことも紹介されています。
AIは、こうした第三者の場での評判も参考にして回答をつくると考えられています。企業が自社サイトで「当社のサービスは優れています」と書くのと、利用者どうしの会話の中で名前が挙がるのとでは、受け取られ方が違うのは人間もAIも同じなのかもしれません。
ここで大事なのは「宣伝色のない」という部分です。コミュニティの利用者は、企業が売り込みに来たと感じると敏感に反応します。質問に答えるふりをして自社サービスに誘導するような書き込みは、かえって評判を下げる結果になりかねません。Webflowの取り組みも、まずは質問者の役に立つ回答を続けることに重きが置かれていたと読み取れます。
また、専用ツールで分析していたという点からは、思いつきで書き込んでいたのではなく、どんな質問が多いのか、自社がどう語られているのかを把握したうえで関わっていた様子がうかがえます。評判づくりも、計測と組み合わせて進めていたということです。
3-6. コンテンツの更新を速める
コンテンツ制作の支援会社AirOpsの事例ページ(2026年6月公開)では、Webflowが既存記事の更新作業を自動化し、更新のペースを5倍にしたことが紹介されています。WebflowのSEO責任者、Vivian Hoang氏が、手作業による更新の負担について語っています。
記事の数が増えれば増えるほど、一つひとつを手で見直す負担は重くなります。情報が古くなった記事を見つけ、内容を確かめ、書き直して公開する。この作業を手作業で回そうとすると、新しい記事の制作と時間を取り合うことになり、結局どちらかが後回しになりがちです。オウンドメディアを数年運営している企業であれば、思い当たる場面があるのではないでしょうか。
AI検索では、古い情報が残ったページは回答の材料として選ばれにくくなると考えられます。だからこそ、更新を「気づいたときにやる作業」から「仕組みとして回る作業」に変えることに意味があるわけです。Webflowの場合、それを自動化という形で実現しました。
自社ですぐに自動化まで進めるのは難しくても、どの記事をいつ見直すかの一覧をつくるだけで、更新の抜け漏れはかなり減らせます。この「更新のサイクルを決める」という考え方は、5章で紹介するVercelの取り組みとも重なっています。
4. 【事例2】VercelのAIO|ChatGPT経由の新規登録が半年で1%から10%に

4-1. 成果の概要
Vercelは2025年6月、公式ブログで、AI検索に向けたSEOの取り組みを公開しました。その中で、ChatGPT経由の新規登録が、全体の約10%になったと明らかにしています。
推移を見ると、半年前には約1%だった割合が、前月には4.8%まで上がり、公開時点では約10%に達していました。半年で約10倍という急速な伸びです。しかも、前月の4.8%から公開時点の約10%へと、直近でも割合が大きく上がっている点からは、伸びが鈍るどころか加速していた様子がうかがえます。
CEOのGuillermo Rauch氏も、2025年4月にX(旧Twitter)で、ChatGPTが新規登録の10%をもたらしており、新規登録全体も加速していると投稿しています。公式ブログという会社の発表に加えて、経営トップ自身が数字に触れている点は、事例としての重みを増していると言えるでしょう。
ここで押さえておきたいのは、Vercelが示しているのが「AI検索全体」ではなく「ChatGPT経由」の割合だということです。Webflowの10%はAI検索経由全体の数字なので、同じ10%でも中身は異なります。2社の数字を並べて語るときは、この違いを意識しておかないと、比べてはいけないものを比べてしまうことになります。数字の定義の違いについては、7-3でも改めて整理します。
4-2. 「置き換え」ではなく「適応」
Vercelのブログが強調しているのは、AI検索に向けた取り組みは、従来のSEOの置き換えではなく、適応だという点です。クロールのしやすさや表示の速さなど、従来のSEOで重視されてきた基盤は、AI検索でも引き続き重要だとしています。クロールとは、検索エンジンやAIのプログラムがページを巡回して内容を読み取ることを指します。
AI検索が話題になると、「SEOはもう終わった」「これからはまったく別の対策が必要だ」という声を耳にすることがあります。けれども、AIが回答をつくるには、まずページを読み取れなければ始まりません。ページが巡回されにくかったり、表示が遅かったりすれば、AIにとっても扱いにくい情報源になってしまいます。土台が同じである以上、これまでのSEOの積み重ねが無駄になるわけではないのです。
この考え方は、Googleが生成AI機能向けの公式ガイドで示している、「生成AI機能はコアの検索の仕組みの上に成り立っており、SEOの基本は引き続き有効」という見解とも一致します。
実務に置き換えると、AIOのために新しい部署や予算を一から立ち上げるより、いまのSEOの体制にAI検索の視点を加えていくほうが、無理なく始められるということでもあります。次の5章で紹介するVercelの施策も、よく見ると従来のSEOの延長線上にあるものが少なくありません。
5. VercelがAIOで行った施策

Vercelの公式ブログでは、次の6つの取り組みが紹介されています。問いを見つけ、答えを公開し、読み取りやすく整え、外で引用されるようにし、更新し、影響を追う。順番に読むと、一つのサイクルとしてつながっていることがわかります。
5-1. まだ答えが少ない新しい問いを見つける
Vercelは、X、Reddit、GitHub、Discordなどで、開発者が新しく抱いている疑問を観察し、まだ十分な答えがないテーマを探します。GitHubは開発者がプログラムを共有・管理するためのサービス、Discordは話題ごとに集まって会話できるチャットのサービスです。いずれも、開発者が日々の困りごとを率直に書き込む場所と言えます。
競合がまだ書いていない問いに、先に答えるという考え方です。すでに多くのページが答えている質問では、後から同じような記事を出しても埋もれてしまいます。一方で、新しい技術や機能が出たばかりのタイミングでは、まだ誰もきちんと答えていない疑問が生まれます。そこにいち早く質の高い答えを用意すれば、AIが回答をつくるときの数少ない材料になれる可能性が高まるわけです。
日本企業に置き換えると、たとえば法改正や新しい制度が始まる前後に、顧客から寄せられる疑問がこれにあたるでしょう。営業担当者が「最近こういう質問が増えた」と話していたら、それは答えの少ない新しい問いのサインかもしれません。
ただし、新しい問いを探すことは、流行の話題に飛びつくこととは違います。自社の顧客が実際に抱えている疑問で、なおかつ自社が答えられるテーマかどうか。この見極めを抜かすと、話題性はあっても事業につながらない記事が増えるだけになってしまいます。
5-2. 根拠のある決定版の情報を公開する
Vercelは、独自のデータ、ベンチマーク、コード、表、図などを含む、深い内容の記事を作ります。ベンチマークとは、性能を同じ条件で測って比べた結果のことです。判断の基準は、ほかの人が簡単に複製できる内容かどうかです。
この基準は、シンプルですが厳しいものです。ほかのサイトの記事をまとめ直しただけの内容は、誰でも同じものを作れます。AIから見れば、同じような情報がたくさんある中の一つにすぎず、わざわざそのページを選んで引用する理由がありません。反対に、自社で測ったデータや、自社だからこそ書ける検証結果は、ほかでは手に入らない情報になります。
「うちには独自データなんてない」と感じる方もいるかもしれません。けれども、実際に担当者の方と話していると、現場には案外多くの材料が眠っています。たとえば、問い合わせ対応でよく受ける質問とその答え方、導入の現場で顧客がつまずきやすいポイント、自社で試してうまくいかなかった方法などです。どれも、ほかの会社が簡単には複製できない情報と言えるでしょう。
記事を企画する段階で「この内容は、競合が明日同じものを書けるか」と自問してみる。それだけでも、記事の方向性は変わってくるはずです。
5-3. 機械が読み取りやすい構造にする
Vercelは、見出しの階層を整理し、構造化データやセマンティックなHTMLを使います。構造化データとは、ページの内容が何を表しているかを機械に伝えるための決まった書き方のことです。セマンティックなHTMLは、見出しや段落、リストなどを、意味に合ったタグで正しく書き分けることを指します。
とくに強調されているのが、多くのAIのクローラーはJavaScriptを実行しないという点です。クローラーとは、ページを巡回して内容を集めるプログラムのことです。最近のWebサイトの中には、ページを開いたあとにJavaScriptというプログラムが動いて、本文を画面に表示する作りのものがあります。人がブラウザで見るぶんには問題なく表示されますが、JavaScriptを実行しないクローラーには、本文が空っぽのページに見えてしまうおそれがあるのです。
そのため、Vercelはページを静的なHTMLとして配信する方法(サーバーサイドレンダリングなど)を採用しています。サーバーサイドレンダリングとは、サーバー側で本文まで組み立てたうえでページを送り届ける方法で、クローラーがJavaScriptを実行しなくても本文を読み取れます。
Next.jsの開発元であるVercelがこの点を強調しているのは、技術の作り手として、この落とし穴をよく知っているからでしょう。自社サイトにも同じ問題がないかは、8-5で紹介する方法で確認できます。
5-4. 信頼できる場で引用されるようにする
Vercelは、技術コミュニティでの共有、オープンソースの公開、関連する記事のまとまり(トピッククラスター)づくりを通じて、信頼できる場で引用されることを目指します。オープンソースとは、プログラムの中身を公開し、誰でも使ったり改良したりできるようにすることです。トピッククラスターは、一つのテーマについて中心となる記事と関連記事を用意し、互いにリンクでつなげる構成を指します。
自社サイトの中をいくら充実させても、外の世界で誰にも触れられていなければ、AIはその情報をどこまで信じてよいか判断しにくいと考えられます。技術コミュニティで共有されたり、公開したプログラムが使われたりすることで、自社の情報が外からも参照される状態が生まれるわけです。
ここで見落とせないのが、有料のリンクは避けるとしている点です。お金を払って外部サイトにリンクを張ってもらう方法は、手っ取り早く見えるかもしれません。しかし、それは信頼できる場で自然に引用されている状態とは別物ですし、検索エンジンのルールにも反するおそれがあります。
近道に見える方法ほど、長い目で見ると評判を損ねかねない。Vercelのこの方針は、Webflowが宣伝色を抑えてRedditに関わっていた姿勢とも共通しています。
5-5. 更新のサイクルを決める
Vercelは、30日、90日、180日ごとにコンテンツを見直し、リンク切れの修正、サイトマップの更新、古いページの整理を行います。サイトマップとは、サイト内にどんなページがあるかを検索エンジンなどに伝えるための一覧のことです。
この施策のよいところは、見直しの頻度を具体的に決めている点にあります。「定期的に見直す」とだけ決めると、忙しい時期には後回しになり、気づけば何年も手つかずのページが残っていた、ということになりがちです。日数で区切っておけば、カレンダーに予定として入れられますし、担当者が変わっても引き継ぎやすくなります。
3つの頻度をどう使い分けるかは、公式ブログの内容からは細かく読み取れません。自社で取り入れる場合は、たとえば情報が変わりやすいページほど短い間隔で、変わりにくいページほど長い間隔で見直す、といった形で考えるのがひとつの方法です。
また、見直しの中身が、リンク切れの修正や古いページの整理といった地道な作業である点にも目を向けたいところです。新しい記事を書くことばかりに目が向きがちですが、すでにあるページを健全に保つことも、AIに信頼される情報源であり続けるための大事な仕事と言えます。
5-6. 影響を追跡する
Vercelは、AI検索での引用の確認、AIサービスからの訪問の追跡、言及の監視を行います。施策を打って終わりにせず、その結果がどう表れているかを見続けているわけです。
ここでの3つの取り組みは、それぞれ見ているものが違います。引用の確認は、AIの回答の中で自社のページが情報源として示されているか。訪問の追跡は、AIサービスから実際にどれだけの人が来ているか。言及の監視は、引用元として示されていなくても、AIの回答や外部の場で自社の名前が出ているかを確かめることにあたります。
ただしVercel自身も、AI検索での見え方を正確に測る専用の指標は、まだ存在しないと認めています。成果を出している企業でさえ、測り方には限界があると率直に述べているのは、読み手として心強い部分ではないでしょうか。完璧な計測方法が見つかるまで待っていたら、いつまでも始められないからです。
自社で取り組むときも、完璧さを求めすぎないことが大切になります。いまある手段で測れる範囲を測り、その限界を理解したうえで判断に使う。2-1で触れた、Webflowの10%という数字が実際の影響より小さい可能性があるという話も、この限界の一つの表れと言えます。
6. WebflowとVercelのAIO事例に共通する5つの原則

2社の取り組みを並べると、共通する原則が見えてきます。サービスの中身も施策の細部も違う2社ですが、考え方の芯はよく似ています。ここでは、その共通点を5つの原則として整理し、最後に表で見比べられるようにしました。
6-1. 原則1:AI経由の訪問を「質」で評価する
Webflowは、訪問数が減っても、コンバージョン率と新規登録の数で成果を判断しました。Vercelも、訪問数ではなく新規登録に占める割合を公表しています。AI検索の成果は、量ではなく質で測ることが、2社の出発点です。
この原則がなぜ大事なのかは、2-2で見たWebflowの経験がよく表しています。AI Overviewのような機能が広がると、簡単な疑問は検索結果の画面で解決してしまい、サイトへの訪問そのものは減る可能性があります。そのときに訪問数だけで判断していると、実際には成果が伸びているのに、施策が失敗したように見えてしまうわけです。
自社で取り入れるなら、まず報告の形を見直すところから始めるとよいかもしれません。たとえば、月次の報告書で訪問数の隣に、問い合わせや資料請求、登録など、自社にとっての成果の数を並べてみる。さらに、それをAI経由とそれ以外に分けて見られるようにする。これだけでも、議論の土台はずいぶん変わります。
質で測るといっても、訪問数を見なくてよいということではありません。量の変化は変化として把握しつつ、それだけで良し悪しを決めない。その姿勢こそが、2社に共通する評価の仕方だと言えるでしょう。
6-2. 原則2:自社にしかない情報を出す
Vercelは「複製が簡単かどうか」を判断の基準にし、Webflowは利用者の具体的な状況に応じた答えを用意しました。アプローチは違っても、どこにでもある情報ではなく、そのサイトでしか得られない情報を出すという点で、2社は同じ方向を向いています。
Googleも、独自で有用なコンテンツが、生成AI機能での露出に最も長期的な影響を与えると述べています。AIの側から見れば、同じ内容がいくつものサイトに書かれているなら、どれを引用しても大差はありません。ほかにない情報があるページだからこそ、回答の材料として選ばれる理由が生まれるのだと考えられます。
とはいえ、「独自の情報」と聞くと、大がかりな調査やデータ分析を思い浮かべて身構えてしまう方もいるでしょう。実際には、もっと身近なところに材料はあります。たとえば、ある地域で整体院を営む方であれば、来院する方からよく聞かれる悩みと、それに対して普段どう説明しているかが、そのまま独自の情報になり得ます。
大切なのは、自社の現場で日々やり取りされている知識を、ページの形に起こすことです。Webflowが利用者の状況に応じた答えを用意したのも、利用者のことをよく知っている自社だからこそできた施策と言えるのではないでしょうか。
6-3. 原則3:質問に答える構造にする
Webflowは見出しを質問形式にし、テンプレートページの冒頭に答えを置きました。Vercelは見出しの階層を整理し、機械が読み取りやすい構造にしました。2社とも、内容だけでなく、その内容をどう並べるかに気を配っていたことになります。
なぜ構造がそこまで大事なのでしょうか。AIは、利用者の質問に答えるために、ページの中から関係のある部分を探し出して回答をつくります。見出しが質問の形になっていれば、その下に答えがあることがわかりやすくなりますし、見出しの階層が整っていれば、どこからどこまでが一つのまとまりなのかを読み取りやすくなります。人が目次を見て読みたい箇所に飛ぶのと、似たようなことが起きていると考えるとイメージしやすいかもしれません。
よくある誤解は、構造を整えることを「見た目を整える作業」と捉えてしまうことです。見出しの文字を大きくしたり色を変えたりしても、HTMLの上で見出しとして正しく書かれていなければ、機械には伝わりません。5-3で触れたセマンティックなHTMLは、まさにこの点に関わります。
Webflowの比較実験が示したように、こうした構造の工夫は比較的すぐに試せるうえ、効果も確かめやすい施策です。最初の一歩として取り組みやすい原則と言えるでしょう。
6-4. 原則4:第三者の場での評判を育てる
WebflowはReddit、VercelはGitHubやDiscordなどの技術コミュニティで、宣伝ではなく役に立つ形で関わっています。どちらも、自社の顧客が普段集まって情報交換をしている場所を選んでいる点が共通しています。
AIは、企業が自分で発信する情報だけでなく、外部の場で語られている評判も参考にして回答をつくると考えられています。自社サイトの中だけでAIOを完結させようとしても、外からの裏づけがなければ、AIにとっては判断材料が足りない状態になりかねません。第三者の場での評判は、自社サイトの情報を外側から支える役割を果たすわけです。
ここで2社がそろって避けているのが、露骨な売り込みです。コミュニティの利用者は、純粋に困りごとを解決したくて質問しています。そこに宣伝を持ち込めば、反発を招くだけでなく、企業の評判そのものを傷つけるおそれがあります。役に立つ回答を続けた結果として名前を覚えてもらう、という順番を守っている点が大切です。
評判づくりは時間がかかり、成果がすぐには数字に表れにくい取り組みでもあります。だからこそ、短期の成果を求められる場面では後回しにされがちです。2社がそれでも続けていたことは、この原則を軽く見てはいけないという示唆として受け止めたいところです。
6-5. 原則5:計測して、更新し続ける
Webflowは比較実験で効果を確かめ、更新を速める仕組みをつくりました。Vercelは更新のサイクルを決め、影響を追跡しています。一度で終わらせず、測って直し続けることが共通しています。
この原則は、ほかの4つの原則を支える土台とも言えます。質で評価するにも、独自の情報を出すにも、構造を整えるにも、それが効いているかどうかを測れなければ、次に何をすべきか判断できません。そして、AI検索の仕組みや利用者の使い方は変わり続けているため、一度うまくいった施策がずっと効き続けるとは限らないのです。
現場でよく見かけるのは、施策をひと通り実施したところで「AI対策は完了した」と区切りをつけてしまうケースです。SEOでも同じことが言えますが、AIOはとくに変化が速い領域なので、やりっぱなしにした分だけ取り残されるリスクが大きくなります。
2社の取り組みを下の表にまとめました。行ごとに見ると、同じ原則でも2社の具体的なやり方が違っていることがわかります。自社でどの形が取り入れやすいかを考えながら、見比べてみてください。
| 原則 | Webflow | Vercel |
|---|---|---|
| 質で評価 | コンバージョン率、新規登録 | 新規登録に占める割合 |
| 独自の情報 | 状況別の質問への答え | 独自データ、ベンチマーク |
| 質問に答える構造 | 見出しの質問化、冒頭の答え | 見出しの階層、静的HTML |
| 第三者の場 | GitHub、Discord、技術コミュニティ | |
| 計測と更新 | 比較実験、更新の自動化 | 更新サイクル、引用の追跡 |
7. WebflowとVercelのAIO事例を読むときの注意点

7-1. 利用者がAIを早くから使う層である
2社の主な利用者は、開発者やWebの制作者です。新しいツールを早くから取り入れる層であり、ChatGPTなどのAIを日常的に使っている人の割合も高いと考えられます。仕事の中でAIに相談しながらツールを選ぶ、という行動がすでに自然になっている人たちだと言えるでしょう。
同じ施策をしても、利用者の層が違えば、AI経由の割合は同じにはなりません。たとえば、地域密着で高齢の方を主な顧客にしている事業であれば、顧客がAIに相談してからサービスを選ぶ場面は、開発者に比べるとまだ少ないかもしれません。その状況で2社と同じ10%を目標にすると、施策の良し悪しとは関係なく「目標未達」という評価になってしまいます。
ここでよくあるつまずきが、事例の数字をそのまま社内の目標値として持ち込んでしまうことです。上司に説明するときに数字は便利ですが、前提の違う数字を目標にすると、後で自分の首を絞めることになりかねません。
では、どう使えばよいのでしょうか。2社の数字は「AI検索がここまで事業に影響し得る」という可能性を示す材料として使い、自社の目標は、自社で計測した現状を起点に決める。この使い分けを意識するだけで、事例の価値を損なわずに活かせるはずです。
7-2. 英語圏のサービスである
2社とも英語圏を中心にサービスを展開しています。日本では、AI検索の利用は広がっているものの、英語圏とは利用の状況が異なります。
違いが出るのは、利用者の数や使い方だけではありません。AIが日本語の質問に答えるときに参照できる情報の量や種類も、英語の場合と同じとは限らないからです。英語圏で効果があった施策が、日本語の環境で同じように効くかどうかは、実際に試してみないとわからない部分があると考えておくのが無難でしょう。
第三者の場についても同じことが言えます。Webflowが活用したRedditは、英語圏では広く使われていますが、日本で同じ役割を果たす場が一つに決まっているわけではありません。業界によって、顧客が集まる場所はまったく違います。この点は、8-4で日本での置き換え方を考えます。
一方で、英語圏の事例を学ぶことに意味がないわけではありません。AI検索の利用が先に進んでいる環境で何が起きたかを知っておけば、日本で同じ変化が起きたときに慌てずに済みます。2社の事例は、少し先の未来を見せてくれる材料として読むのがちょうどよい距離感ではないでしょうか。
7-3. 数字の定義が情報源によって違う
Webflowについては、情報源によって数字が異なります。取材記事では「新規登録の10%がAI検索経由」、支援会社Graphiteの事例ページでは「AI経由の新規登録の割合が4%から8%に」、AirOpsの事例ページでは「ChatGPT経由の新規登録の割合が2%から約10%に」とされています。
同じ会社の話なのに、数字がばらばらなのはなぜでしょうか。計測の時期や対象(AI全体か、ChatGPTだけか)が違うためと考えられますが、詳細は公表されていません。たとえば、AI全体を対象にした数字と、ChatGPTだけを対象にした数字では、当然ながら意味が異なります。また、いつの時点の数字かによっても値は変わるでしょう。
この食い違いは、事例を引用する側にとって注意すべき点です。社内資料やSNSで「Webflowは〇%」と紹介されているのを見かけたら、その数字がどの情報源のものなのかを確かめる習慣をつけておくと安心です。出典を確かめずに数字だけを使うと、別の資料と食い違っていると指摘されたときに説明できなくなってしまいます。
本記事では、企業自身の発言である取材記事の10%を主な数字として採用しています。ほかの数字を紹介するときは、どの情報源のもので、何を対象にした数字なのかを添えるようにしています。数字そのものより、数字の出どころを正確に伝えることのほうが、長い目で見て信頼につながると考えているからです。
7-4. 支援会社の事例は第三者の検証がない
Graphite、AirOpsの事例ページは、支援した会社自身による公表です。施策の中身を知るうえでは参考になりますが、数値は第三者によって検証されたものではありません。
支援会社が自社の事例を公表するのは、ごく自然なことです。私たちバクリも支援会社の立場にあるので、事例を紹介したい気持ちはよくわかります。ただ、そうした事例ページには、自社の実績を伝えるという目的もあります。うまくいった部分が前に出やすく、うまくいかなかった部分や前提条件は省かれやすい、という性質があることは、読み手として知っておいて損はないでしょう。
だからといって、支援会社の事例を無視する必要はありません。3章で見たように、どんな作業をどんな順番で行ったかという施策の中身は、企業自身の発表よりも詳しく書かれていることが多く、実務の参考になります。使い分けのポイントは、施策の中身は参考にしつつ、数字の扱いには慎重になることです。
社内資料に引用する場合は、企業自身の発表(Vercelの公式ブログ、WebflowのVP of Growthの発言)を優先してください。支援会社の数字を使うときは、「支援会社による公表で、第三者の検証はない」と一言添えておくと、資料を受け取った側も正しく判断できます。
8. 日本企業がWebflow・VercelのAIO事例から取り入れられること

7章の注意点を踏まえると、2社の数字を目標にするのではなく、施策の考え方を取り入れるのが現実的です。ここでは、日本企業が取り組みやすい順に、2社の事例から持ち帰れることを整理しました。いきなりすべてに手をつける必要はありません。上から順に、できるところから始めてみてください。
8-1. まず、AI経由の成果を測れるようにする
2社の事例は、AI経由の新規登録を測れていたからこそ、成果を示せました。裏を返せば、測る仕組みがなければ、どれだけ施策を打っても成果を語ることはできません。最初の一歩は、施策そのものより先に計測の準備をすることです。
まずはGA4で、ChatGPTやPerplexityなどAIサービスからの訪問と、そのコンバージョンを確認できるようにします。GA4はGoogleが提供しているアクセス解析のツールです。参照元、つまりどのサイトから訪問者が来たかを確認できる画面で、AIサービスからの訪問を見分けられるようにしておくと、その後の判断がしやすくなります。
ただし、2-1で触れたように、AIの回答を見たあとで社名を検索して訪れた人などは、AI経由としては記録されません。ツールの数字だけでは、AIの影響の一部しか見えないことになります。
そこで、問い合わせフォームの「当社を知ったきっかけ」に「生成AI(ChatGPTなど)」を加えるのも有効です。たとえば、BtoBの商材を扱う企業であれば、問い合わせをくれた担当者自身に答えてもらうことで、ツールでは拾いきれない影響を把握できます。ツールの数字と顧客の自己申告、この両方を組み合わせて見るのが現実的な方法でしょう。
8-2. 具体的な質問に答えるページをつくる
Webflowのように、「〇〇な会社には、どのサービスが合うか」といった、顧客の状況に応じた質問に答えるページを用意します。3-2で見たとおり、AIに投げかけられる質問は、検索キーワードよりも長く具体的になりやすいからです。
では、その具体的な質問はどこで見つければよいのでしょうか。営業や問い合わせの現場で実際に聞かれる質問が、最良の材料です。キーワード調査のツールでは拾えない、顧客自身の言葉で語られた悩みがそこにあります。営業担当者に「最近よく聞かれることは何か」と尋ねてみたり、問い合わせのメールを読み返したりするだけでも、多くの候補が見つかるはずです。
たとえば、業務用のソフトウェアを販売している会社であれば、「社員が少ない会社でも使いこなせるか」「いま使っているツールから乗り換えるときの手間はどれくらいか」といった質問がよく届くかもしれません。こうした質問に、一般論ではなく、自社の視点から正面から答えるページをつくるわけです。
よくある失敗は、質問を集めたあとで、答えの部分が結局自社の宣伝になってしまうことです。「当社のサービスなら解決できます」とだけ書いても、質問への答えにはなっていません。どんな会社に向いていて、どんな会社には向いていないのかまで率直に書くほうが、読み手にもAIにも信頼されやすいと考えられます。
8-3. 見出しと目次を、比べて確かめる
見出しの質問化や目次の追加は、すぐに試せる施策です。見出しの文言を変えたり、記事の冒頭に目次を置いたりするだけなので、大がかりなシステム改修も必要ありません。3-4で紹介したWebflowの比較実験でも、この2つの施策が取り上げられていました。
ただし、手軽だからといって、全ページに一斉に適用するのはおすすめしません。一斉に変えてしまうと、その後に訪問が増えても減っても、それが施策のせいなのか、AI検索の環境全体の変化なのかを区別できなくなるからです。せっかく手を動かしても、何が効いたのかわからなければ、次の判断に活かせません。
そこで、9章で紹介する方法を使い、施策を行うページと行わないページを比べてから広げるのがよいでしょう。たとえば、同じカテゴリーのよく似た記事をいくつか選び、半分だけ見出しを質問形式に変えて、しばらく様子を見るという進め方です。
見出しを質問形式にするときは、不自然にすべてを「〜とは?」で終わらせる必要はありません。読者が実際に抱きそうな疑問の言葉で書くことを意識すると、読みやすさを損なわずに済みます。小さく試して、確かめてから広げる。この順番を守ることが、限られた人手で成果を出す近道になります。
8-4. 日本のコミュニティで役に立つ
Redditの代わりに、日本では業界の専門メディア、技術情報の共有サービス、SNS、業界団体のイベントなどが、第三者の場になります。7-2で触れたように、日本ではこれ一つと決まった場があるわけではないので、自社の顧客がどこで情報を集めているかを見極めるところから始めることになります。
たとえば、製造業向けの部品を扱う企業であれば、業界の専門メディアへの寄稿や、業界団体のイベントでの登壇が、顧客の目に触れる場になるかもしれません。開発者向けのサービスであれば、技術情報の共有サービスでの情報発信が向いているでしょう。どの場がふさわしいかは業界によって大きく異なるため、営業担当者や既存の顧客に「普段どこで情報を集めているか」を聞いてみるのが確実です。
宣伝ではなく、役に立つ情報の提供を続けることが、評判につながります。6-4で見たように、2社とも売り込みを避け、困っている人の役に立つ形で関わっていました。日本のコミュニティでも、その姿勢は変わりません。
この取り組みは、成果が数字に表れるまでに時間がかかります。最初から大きな成果を期待するより、担当者を決めて少しずつ続けられる形にしておくほうが、長い目で見て実を結びやすいと言えます。
8-5. ページが静的なHTMLで読めるか確認する
Vercelが指摘するように、多くのAIのクローラーはJavaScriptを実行しません。5-3で説明したとおり、JavaScriptで本文を表示しているサイトは、AIのクローラーに本文が読めていない可能性があります。人がブラウザで見ると問題なく表示されているので、担当者が気づかないまま放置されていることが少なくありません。
簡単な確認方法の一つは、ブラウザでページのソース、つまりサーバーから送られてきたHTMLそのものを表示して、本文の文章がそこに含まれているかを見ることです。画面には記事が表示されているのに、ソースの中に本文が見当たらなければ、JavaScriptで後から表示している可能性があります。
とはいえ、サイトの作りは専門的な領域なので、マーケティング担当者だけで判断するのは難しい場合もあるでしょう。制作会社やシステム担当者と一度確認してください。そのときは「AIのクローラーはJavaScriptを実行しないことが多いので、本文が静的なHTMLで配信されているかを知りたい」と目的を伝えると、話がスムーズに進みます。
もし問題が見つかった場合、改修には時間や費用がかかることもあります。すべてのページを一度に直すのが難しければ、問い合わせにつながりやすい主要なページから優先して対応するのが現実的です。
8-6. 更新のサイクルを決める
主要なページについて、見直しの頻度を決めます。5-5で紹介したように、Vercelは日数で区切った更新のサイクルを決めていました。頻度を具体的に決めておくことで、忙しさに流されて更新が後回しになるのを防げます。
とはいえ、いきなり細かいサイクルを組むのは負担が大きいかもしれません。最初は四半期に一度でも構いません。大切なのは頻度の多さより、決めたサイクルを途切れさせずに続けることです。続けるうちに、情報が変わりやすいページとそうでないページの区別がついてくるので、そこから頻度を調整していけばよいでしょう。
見直しのときに何を確認するかも、あらかじめ決めておくと作業がぶれません。たとえば、記事内の情報が古くなっていないか、リンク切れがないか、顧客から新しく寄せられた質問を反映できていないか、といった点です。チェックの観点を一覧にしておけば、担当者が変わっても同じ水準で見直せます。
3-6で見たように、Webflowは更新作業の自動化にまで踏み込んでいました。まずは手作業でサイクルを回し、どの作業に手間がかかっているかが見えてきた段階で、効率化や自動化を考える。この順番で進めると、無理なく仕組みを育てていけます。
9. 自社でAIOの効果を検証する方法|Webflowの事例に学ぶ

9-1. 施策を行うページと、行わないページを分ける
Webflowの比較実験にならい、性質の似たページを2つのグループに分けます。片方だけに施策(見出しの質問化、冒頭への答えの追加など)を行い、もう片方は変えません。施策を行わない側のグループは、比べるための基準になるので、比較対象と呼ばれます。
ここでもっとも気をつけたいのが、「性質の似たページ」をどう選ぶかです。たとえば、片方のグループに人気の記事ばかりを、もう片方にほとんど読まれていない記事を入れてしまうと、施策とは関係なく結果に差が出てしまいます。テーマのカテゴリー、記事の種類、これまでの訪問の多さなどがなるべくそろうように、ページを振り分けるのが理想です。
実務では、まず候補になる記事を一覧にして、似たもの同士をペアにし、ペアの片方ずつを2つのグループに分けるやり方がわかりやすいでしょう。こうしておくと、グループの間で記事の性質が偏りにくくなります。
もう一つの注意点は、一度に複数の施策を混ぜないことです。見出しの質問化と目次の追加を同時に行うと、効果が出ても、どちらが効いたのかわかりません。試したい施策が複数あるなら、一つずつ順番に確かめていくほうが、遠回りに見えて結果的には確実です。
9-2. 数週間、同じ指標を比べる
数週間後に、2つのグループのAI経由の訪問、検索からのクリック、コンバージョンを比べます。期間を数週間とっているのは、数日だけでは、たまたまの増減に結果が左右されやすいからです。Webflowの比較実験も、数週間にわたって行われていました。
検索環境全体の変化は両方のグループに同じように表れるため、差を見れば、施策の効果を推し量れます。たとえば、実験の期間中にAI検索の利用者が全体的に増えたとしても、その影響は施策を行ったページにも行わなかったページにも同じように及ぶはずです。だからこそ、2つのグループの差に注目することで、施策そのものの効果を取り出せるわけです。
比べる指標は、実験を始める前に決めておきます。始めてから都合のよい指標を探すと、たまたま差が出た数字だけを拾ってしまい、判断を誤るおそれがあるからです。6-1で見たように、訪問数だけでなくコンバージョンまで確認しておくと、質の面からも効果を判断できます。
また、実験の期間中は、両方のグループに別の変更を加えないようにしてください。途中で一部のページだけを書き直したりすると、比較の前提が崩れてしまいます。担当者が複数いる場合は、実験中のページがどれかを共有しておくと安心です。
9-3. 効果が確かめられたら広げる
差が確認できた施策から、ほかのページに広げます。差が見られなければ、別の施策を試します。この繰り返しが、限られた人手で成果を積み上げる方法です。
差が見られなかった場合も、それを失敗と捉える必要はありません。「この施策は、自社のこの種類のページでは効果が見えにくい」とわかったこと自体が、一つの収穫です。2-3で見たように、Webflowもllms.txtについては目立った効果がなかったと率直に伝えています。効かなかった施策に人手を使い続けずに済むという意味で、実験は時間の節約にもつながります。
判断に迷うのは、差がわずかに出たものの、はっきりとは言い切れないケースでしょう。そのような場合は、ページの数を増やしたり、期間を延ばしたりして、もう一度確かめてみるのが一つの方法です。3-4で触れたとおり、ページ数が少ない実験は結果がぶれやすいので、慎重に判断するに越したことはありません。
効果が確かめられた施策を広げるときも、一度に全ページへ適用するのではなく、優先度の高いページから順に進めると管理しやすくなります。こうして、測って、比べて、広げる流れを社内で回せるようになれば、外部の事例に頼らず、自社のデータで判断できる体制が整っていきます。
AI検索での成果の測り方の詳細は、[AI引用の計測方法に関する記事|内部リンク先URL]で解説しています。
バクリでは、海外R&D体制による最新事例のリサーチと、AI検索での引用状況の可視化をもとに、施策の設計から効果の検証、社内で続けられる体制づくりまでを一貫して支援しています。
10. WebflowとVercelのAIO事例に関するよくある質問
Q1. WebflowのAI経由の新規登録は、どれくらいですか?
WebflowのVP of Growthへの取材記事(2025年11月)では、新規登録の10%がAI検索経由で、前年比4倍とされています。ChatGPT経由の訪問者のコンバージョン率は24%で、Google経由の6倍でした。なお、支援会社の事例ページでは別の数字も紹介されていますが、計測の時期や対象が異なると考えられるため、本記事では企業自身の発言である取材記事の数字を主に採用しています。
Q2. VercelのChatGPT経由の新規登録は、どれくらいですか?
Vercelの公式ブログ(2025年6月)によると、ChatGPT経由の新規登録は全体の約10%で、半年前の約1%から大きく伸びています。前月の時点では4.8%だったとされており、短い期間で割合が高まっていたことがわかります。なお、これはAI検索全体ではなくChatGPT経由に限った数字なので、Webflowの10%とは対象が異なる点に注意してください。
Q3. 2社はllms.txtを使っていますか?
Webflowはllms.txtを導入したものの、目立った効果は確認できなかったと取材記事で紹介されています。Vercelの公式ブログでは、llms.txtは主な施策として挙げられていません。2社の成果は、llms.txtよりも、質問に答えるコンテンツづくりや構造の整理、第三者の場での評判づくり、計測と更新の継続といった取り組みから生まれていると読み取れます。
Q4. 日本企業でも同じ成果が出ますか?
同じ数字になるとは限りません。2社の利用者は、AIを早くから使う開発者や制作者が中心で、英語圏のサービスです。顧客の層や言語の環境が違えば、AI経由の割合も変わってきます。数字を目標にするより、成果を質で測る、質問に答える、比べて確かめる、といった考え方を取り入れることをおすすめします。そのうえで、自社の目標は自社で計測した現状をもとに決めるのが現実的です。
Q5. まず何から始めればよいですか?
AI経由の訪問とコンバージョンを測れるようにすることです。GA4でAIサービスからの訪問を確認し、問い合わせフォームに「生成AI」の選択肢を加えれば、すぐに始められます。測る仕組みが整ったら、見出しの質問化のような手軽な施策を、施策を行うページと行わないページに分けて比べてみてください。効果を確かめてから広げることで、限られた人手でも成果を積み上げやすくなります。
11. まとめ|WebflowとVercelのAIO事例から学ぶべきは「数字」より「進め方」
Webflowでは新規登録の1割がAI検索経由になり、Vercelでは ChatGPT経由の新規登録が半年で約10倍になりました。2社に共通していたのは、AI経由の訪問を質で評価し、自社にしかない情報を質問に答える構造で公開し、第三者の場での評判を育て、計測と更新を続けたことです。ただし、2社はAIを早くから使う利用者を抱える英語圏のサービスで、数字をそのまま自社に当てはめることはできません。
まずはAI経由の訪問とコンバージョンを測れる状態をつくり、小さな施策を比較対象を置いて試すところから始めてみてください。
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